働き蜂や雄蜂を増やすのと違い、女王蜂を増やすには多少テクニックが必要になります。その原因は「原則として女王蜂は1群に1匹」という決まりがあるからです。 女王蜂同士の長期間の共存は難しく、最終的に女王蜂の数だけ群が必要になります(女王蜂を増やす事=群を増やす事)。
上記の写真は未交尾の女王蜂です。 未交尾女王蜂は、羽化後、一週間ほど経つと交尾飛行に出かけ、空中で複数のオス蜂と交尾し卵が産めるようになります。 交尾の成功率は100%ではなく、交尾飛行中に女王蜂が捕食されたり、失踪し群に戻って来ない事も起きます。
雄蜂の総数と交尾成功率は深く関係しています。 雄蜂が少ないと交尾成功率は低く、対照的に雄蜂が多いと交尾成功率は高くなります。 そのため、女王蜂を生産する前に強群(雄蜂大量群)を最低でも1群は養蜂場に用意したほうが良いでしょう。 例外的に、付近に大群を飼っている養蜂家がいれば、オス蜂数を気にする必要はありません。
①雄蜂を育てる ミツバチは中~強群になれば、自然に雄蜂を沢山作り始めます。 女王蜂の生産は、雄蜂(成虫)が巣箱内に大量に増えたのを確認後に行います。 雄蜂は群が食料不足になると、優先的に巣箱から追い出され、外で死んでしまいます。 雄蜂量産中は、給餌を頻繁に行い群が食料不足にならないようにしましょう。 |
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②王台を作る 雄蜂が十分に増えたら、次は王台の作成を開始します。ここでは、作るのが一番簡単な変成王台の作成方法を説明します。 変成王台の作り方は、王台を作らせたい群から女王蜂を取り出すだけです(無王群化させる)。 そのまま無王群を放置すると王台(変成王台)を複数作り始めます。 変成王台は、女王蜂撤去後、24時間以内に作られますが、初めはとても小さく初心者では王台の見分けが付きません。 変成王台を確認する場合は、無王群化させてから3~4日後に内部検査をして下さい。 この頃には王台も大きくなっており初心者でも見分けが付きます(写真はフタがされた変成王台です)。 |
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③王台の選別と分配 作られた複数の王台をそのまま放置すると、分蜂または一番初めに生まれた女王蜂に他の全ての王台が破壊されます。 もし、女王蜂を1匹だけ作りたい場合は、確実に分蜂を防止する為、他の余計な王台は全て潰しましょう。 余計な王台を潰すタイミングは、無王群化してから8~9日目に行います。早期に王台を潰しても、また幼虫から新たな王台を作るので意味がありません。 注意:王台の羽化率は8割程度です。そのため群に残した1個の王台が羽化しない事もあります。また、残した王台が働き蜂に壊される事もあります。 女王蜂を複数作りたい場合は、余計な王台をカッターなどで切り取り、他の無王群に与えます。写真はカッターで切り取った変成王台です。 王台は、フタがされてから一週間ほどで女王蜂が羽化します。 |
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④切り取った王台の与え方(専用道具なし) 切り取った王台は王台の先端を下(重要)にして無王群に与えます。 私は、ミツバチが多い巣枠の間に軽く挟むようにして与える事が多いです。 弱群は保温力が弱いので、王台は必ずミツバチが一番多い巣枠間に設置して下さい。 |
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④切り取った王台の与え方(専用道具あり) 王台を無王群に与えやすくする養蜂道具(王台ガード)もあります。 この製品は、「王台ガード」という名前が付いていますが・・・王台の破壊をガードできないので注意してください。 王台を完全に保護するには、下記で紹介するヘアロール王籠を使います。 |
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王台ガードにはめ込んだ王台は、巣脾枠に突き刺して無王群に与える事ができます。 商品説明によれば、雄蜂巣房付近に王台を設置したほうが破壊されにくいとのことです。 | |
⑤無王群に王台を与える時のポイント(要点) ポイント①: 王台は無王群化してから半日以上経過した群に与えてください。 無王になったばかりの群は、ミツバチがまだ無王と認識しておらず与えた王台を破壊する事があります。 ポイント②: 王台を与える無王群に変成王台がある場合は、全て取り除いてから王台を与えてください。 変成王台があると、与えた王台を破壊する事があります。 ポイント③: 強群ほど他群の王台を受け入れづらく、逆に弱群は他群の王台を受け入れやすいです。 ポイント④: 中群~強群の場合は、群に王台が複数あると分蜂する可能性がとても高いです。 ポイント⑤: 弱群は、群に王台が複数あっても分蜂する可能性が低いです。 ポイント⑥: 王台を頻繁に破壊する群には、切り取った王台をヘアロール王籠等に入れ保護してから与えると良いでしょう。 ポイント⑦: 女王蜂の羽化が近い王台ほど破壊されずらいので、出来る限り古い王台を与える。 |
「なんかごちゃごちゃ書かれていて全く意味が解らない・・・」という初心者の方へ。
一番簡単に女王蜂を増やす方法は、群を二つに分ける事です。 群分割後、1ヶ月ほど放置しとけば・・・運がよければ2群(女王蜂が2匹)になっているでしょう。 この放置型の女王蜂作成は、全てをミツバチと運に任せる初心者向けの方法です。 運任せの方法ですが優秀な女王蜂の作成に向いているようです。
ある程度養蜂に慣れたら、上記の放置型女王蜂作成方法は行わないほうが良いでしょう。 なぜなら、試行錯誤が無いので養蜂技術が向上しません。
さて、話をテクニカルな女王蜂の生産方法に戻します。
1群(無王群)に王台を複数作らせると、「未交尾女王蜂が分蜂、又は一番初めに生まれた女王蜂が他の全ての王台を破壊する」という結果になります。 しかし、作られた王台を全て王籠で隔離してしまえば話は別です(分蜂も破壊もされない)。
①王台を作る 群から女王蜂を抜き、変成王台を作らせるまでは同じです。 |
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②王台を全て切り取る 無王群を徹底的に内部検査し、王台を全て切り取ります。 内部検査するタイミングは、無王群化してから8~9日目に行うのが良いです(若い幼虫が無く、ミツバチが自力で新たに王台を作れない為)。 王籠外に見逃し王台があると、分蜂する事があるので注意して下さい。 |
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③王台の形を整える 切り取った王台の形を、王籠に入るようにカッターなどで整えます。王台内部の蛹を切らないように慎重に作業して下さい。 注意:王台を小さく切り過ぎると、王籠内で引っ掛からず、王台の固定が出来なくなるので、王台周囲の巣脾は少し残しておきましょう。 王台の切り取り方は、「王台の切り取り方」のページも参照下さい。 |
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④王籠に王台を入れる 王台を潰さないように優しく王籠に入れてフタをします。 王籠内に王台を置く時は、王台先端部分を下に向けて配置して下さい。 |
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④-1 王籠に小さい王台を入れる場合 切り取った王台が小さく王籠の下に落ちてしまう場合は、釘などを使い王籠内部に王台を固定できます。釘が蛹に刺さらないように気を付けましょう。 |
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王籠に入れた王台です。王籠に入れる王台は、他群の物でも大丈夫です。
羽化した女王蜂は、自力でハチミツを良く吸います。 もし、王籠内で羽化した女王蜂を数日管理する場合は、餓死を防止するため王籠下部に餌(輸送用の餌)を少し入れておきましょう。 補足:女王蜂は王籠の隙間から餌を貰えますが、足りない場合は餓死します。 | |
⑤王籠(王台入り)を無王群に与える(上) 与える王籠が少ない場合は、蜂が多い巣枠間に挟みます。 情報: 王台を人工的に保温しても女王蜂は羽化します。詳しくは、王台保温器の作成を参照して下さい。 |
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⑤王籠(王台入り)を無王群に与える(下) 気温が30℃近い時は、王籠を巣箱の下に置いた方が内部の王台が死ににくいと感じます。 幸い、ヘアロール王籠ば巣箱の底に立たせて与える事ができます。 王籠設置後は、倒れないように軽く巣脾枠で挟んでください。 |
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⑤沢山の王籠(王台入り)を無王群に与える 与える王籠が4つ以上の場合は、巣枠に挟むのが難しくなるので少し工夫が必要です。 写真は専用の道具(数百円)を使用し、王籠を木の板に固定しました。このまま無王群の巣枠間に置きます。 作り方はこちらを参照して下さい。 |
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王籠(王台入り)を与える無王群について 無王群の保温力が弱いと、王籠内の王台の保温が安定せず女王蜂が羽化しないので注意が必要です。 保温力はミツバチの数で決まるので、使用する無王群は出来る限り大きな群にして下さい(5枚群以上推奨)。 |
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⑥王籠内で女王蜂が羽化したら回収する 王籠内で羽化した女王蜂は、慣らし無しで無王群に与える事ができます(生まれたての働き蜂と同じ扱い)。 女王蜂の馴らし無し導入に抵抗がある方は、半日~1日ほど無王群に慣らしてから女王蜂を与えて下さい。 注意点: 王籠で王台を保護すると、通常なら働き蜂に除去されてしまう不良王台からでも女王蜂が羽化します。 王籠内で女王蜂を羽化させた場合は女王蜂の体をよく観察し、羽や足が正常か観察して下さい。 発達不良の女王蜂は捨てて下さい。 |
所有群数が50群未満なら、上記の方法で効率的に女王蜂を増やせると思います。
何百群もミツバチを飼育してるプロ養蜂家は、下記で説明する「人工王椀を使った女王蜂生産」で女王蜂を大量生産しています(ロイアルゼリーの量産も同じ)。 総合的な養蜂技術・専用の道具・細かい作業・王台の管理が必要になります。
動画の概要:人工王椀に幼虫を移す→王台を作らせる群に移虫王椀を与える→強群(無王群)に王台を預ける→王台にフタがされたら王台を巣枠から外して小さい群に1個づつ預ける→女王蜂が産まれる→交尾成功→交尾済み女王蜂が出来る。
人為的な女王蜂生産には、色々な方法が存在しますが、ここでは一番代表的な方法(Gilbert M. Doolittle メソッド)紹介します。 最低限必要な物: ①貯蜜や貯花粉が多い元気な有王群(5枚群以上を推奨)、②人工王椀を沢山取り付けた巣枠、③移虫針、④カッター。 |
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準備: まず初めにする事は、3~5日前から継続的に給餌して状態の良い有王群を準備します。 群の良し悪しは、女王蜂生産の全ての作業に影響するので最重要です。 人工王椀枠は、移虫作業を行う2~3日前から群に与えておきましょう。(王椀内部を掃除させる為) 移虫作業の2~3日前に状態の良い有王群から女王蜂を抜いて下さい。(無王群化し王台製作群として使用) |
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移虫作業: 移虫作業日には、まず準備した無王群の内部検査を行い、全ての変成王台を除去します。 この際、変成王台からロイアルゼリーが採れます。 移虫針で孵化して2日目位の幼虫を巣房から取り出し、人工王椀に移していきます(他群の幼虫でも大丈夫です)。 小さい幼虫ほど移虫成功率が高くなるので、なるべく小さい幼虫を狙いましょう。(卵と同じ位の大きさの幼虫がベストです。) |
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移虫作業: こんな感じで幼虫を取ります。視力と手先の器用さが求められます。 幼虫の取り方は、初心者向けに女王蜂生産を参照して下さい。 |
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移虫作業: 幼虫を人口王椀の中心部に移します。 写真の幼虫は、かなり大きいです。(写真が撮りやすかった為) 実際に移虫する際は、これ以上大きな幼虫は移虫しないようにしましょう。 |
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移虫作業: 幼虫を移した人口王椀(移虫王椀)を、巣枠等に複数設置していきます。 移虫数が少ない場合は、作業時間も短いので幼虫の乾燥対策は特に必要ありません。 幼虫の乾燥対策をしたい場合は、移虫する前に人工王椀の底にロイアルゼリーを移虫針を使って塗っておきましょう。 ロイアルゼリーは変成王台から十分に採れるので、前もって準備する必要はありません。 王椀設置枠の作り方はコチラを参照して下さい。 |
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ミツバチによる王台の作成: 内部検査し変成王台を全て除去した無王群に、移虫王椀枠を与え王台を作らせます。(歩留まりは悪いですが、女王蜂を隔離すれば有王群でも可) 王台を作らせる群の状態・季節・地域により、移虫王椀の受け入れ率が大きく変わります。 女王蜂が居たり、自然王台・変成王台があると移虫を受け入れずづらくなります。 若い蜂が多い群は移虫王椀を受け入れやすく、王台歩留まりが高くなります。 |
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ミツバチによる王台の作成: 移虫王椀が受け入れられると、こんな感じで王台化されます。 移虫王椀受け入れ率が80%もあれば上出来です。 群は移虫王椀受け入れ後も変成王台を独自に作る傾向が高いので、時々内部検査をし変成王台を探しましょう。変成王台があれば除去します。 |
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成功のコツ: 人口王椀を使った方法で重要な事は、①若い蜂が多い群を使う(もしくは作る) ②餌を沢山与える ③人工王椀をしっかりミツバチに掃除させる ④状態の良い無王群を使う ⑤変成王台は全部潰す ⑥王台を沢山作らせるには強群を使う。 上記の事項を考慮すれば失敗が少なくなります。 |
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作った王台配り: 蓋がされた王台を枠から取り外し無王群に配ります。あまり若い王台だと、無王群に破壊されやすいので、なるべく羽化が近い王台を与えましょう(羽化2日前位)。 考慮:王台の羽化率は80%程度です。また、与えた王台が破壊される事もあります。 |
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羽化した女王蜂の回収方法: 羽化した女王蜂を無王群に配りたい場合は、写真のような王台保護籠を全ての王台に被せ生まれた女王蜂を回収します。 |
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王籠内で女王蜂を羽化させる際の注意点: 羽化した女王蜂は、自力でハチミツを良く吸います。 もし、王籠内で羽化した女王蜂を数日管理する場合は、餓死を防止するため王籠内に餌(輸送用の餌)を少し入れておきましょう。 餌は、キャップの隙間部分に入れる事ができます。 |
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王籠内で羽化した女王蜂です。 | |
回収した女王蜂配り: 王籠内で羽化した女王蜂は、慣らし無しで無王群に与える事ができます(生まれたての働き蜂と同じ扱い)。 女王蜂の馴らし無し導入に抵抗がある方は、半日~1日ほど群に慣らしてから女王蜂を与えて下さい。 注意点: 王籠で王台を保護すると、通常なら働き蜂に除去されてしまう不良王台からでも女王蜂が羽化します。 王籠内で女王蜂を羽化させた場合は女王蜂の体をよく観察し、羽や足が正常か観察して下さい。 発達不良の女王蜂は捨てて下さい。 |
移虫による女王蜂生産を更に分かりやすくした記事を書きました。 移虫をしてみたい方はコチラのページも合わせて読むとより理解が進むと思います。
現在、女王蜂生産技術は更に効率化が進んでおり女王蜂生産キットという便利な養蜂道具が販売されています。
女王蜂生産キットの概要です。
基本的な女王蜂生産手順は、従来の方法と同じです。 唯一の違いは、面倒な移虫作業が必要無い事です。 移虫が無く便利な道具ですが、群の管理(産卵~孵化まで)は、通常の方法よりシビアだと感じます。 女王蜂生産キットの使用動画はコチラを参照して下さい。 |
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まず、女王蜂を専用の大きな隔王籠に閉じ込め、直接人口王椀に産卵させます。 新しい道具はミツバチが嫌いますので、使う前に1週間ほど群に預け、全体の掃除+プロポリスを塗布してもらいましょう。 |
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人工王椀に産み付けられた卵です。
ポイント:ミツバチによる王椀の掃除が甘いと、女王蜂が王椀になかなか産卵しません。 |
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3~4日すると卵から幼虫が孵化します。
ポイント:ミツバチによる王椀の掃除が甘かった場合、孵化した幼虫は直ぐに除去され育ちません。 |
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羽化して24時間以内の幼虫です。 幼虫は、人工王椀内では大きく育たないので早めに回収します。(放置してると働き蜂に除去されます。)
このように移虫作業無しに卵付き~幼虫付き王椀を回収できます。 これ以降の作業は、上記で説明した方法と同じです。 卵を使用して王台を作らせる場合は、孵化する直前(3日目)の卵を使用して下さい。 |
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卵は孵化が近くなると横たわってきます。
いつ生んだか卵か解らない場合は、とりあえず一番横たわっている物から使用して下さい。 |
女王蜂を作り過ぎる→群を多く分割する→全て弱群化しないように気を付けてください。弱群は環境の変化や外敵に弱く全滅しやすいです。越冬が必要な土地では秋までに中群~強群にする必要があります。弱群だと冬に凍死してしまいます。 補足:1群に複数群の女王蜂を預ける「女王蜂バンク」というテクニックもあります。
また、腹が小さい女王蜂(産卵を停止してる女王蜂・未交尾の女王蜂)は飛べるので気をつけて扱って下さい。 隔王籠から出した直後や内部検査中に飛んで逃げて戻ってこなかった事があります。 もし女王蜂が飛んで逃げてしまったら・・・群に戻ってくるように祈りましょう。
女王蜂の逃亡が心配な方は、未交尾女王蜂がいる間は群の内部検査の頻度を少なくしましょう。 分蜂前にも女王蜂は飛べるように腹が小さくなるので気をつけましょう。
交尾済み女王蜂の場合は羽を切ると飛べなくなるので、逃亡や一時的な分蜂防止になります。しかし、間違っても未交尾女王蜂の羽は切らないでください。交尾飛行できなくなります。