ミツバチの記憶力

ミツバチは自分の巣箱の位置・周囲の風景・蜜源の位置を記憶する能力があり、2~3km離れた所まで花蜜を吸いに行っても巣箱まで戻ってくる事が出来ます。 ミツバチの記憶力は素晴らしいですが、この記憶が群を移動・分割・合同させる時に問題になります。 ミツバチの記憶が問題になるのは主に外勤蜂(成熟した蜂)です。

ミツバチの訪花距離の補足: 実際は10km先まで花を求めて飛んでいるようです。このページの一番下の文献を参照。

ミツバチの成熟度による性格と仕事の変化

ミツバチ(働き蜂)は、巣内部の仕事をする内勤蜂(若い蜂)と、巣の外で花蜜や花粉を集める外勤蜂(成熟した蜂)に分別できます。 羽化したての若いミツバチは、まず巣内で主に子育てをしたり巣を作ったりします。

成熟が進むと門番蜂になり、更に成熟が進むと外勤蜂になり外での活動が主になります。 例外として、群の緊急時には外勤蜂が内部仕事をしたり、内勤蜂が早く成熟して外勤蜂に成る事もあります。

若いミツバチは蜂児枠に多く、外勤蜂は巣門付近の貯蜜枠や巣箱の壁・フタなどに多いです。巣箱を開けた時に攻撃してくるミツバチは、巣箱で待機中の外勤蜂です。

成熟による性格と仕事の変化
若いミツバチは、危険が少ない巣内部での育児・女王蜂の世話・巣作り等が仕事になります。若い蜂は性格も穏やかで他の群の働き蜂や女王蜂を受け入れ易いです。

群合同: とても合同し易い
群分割: 元の位置に戻りにくい
女王導入: 他の女王蜂を受け入れ易い
外部の記憶: ほとんど無い
集蜜力: 餌を集めに行かない
攻撃性: とても低い

少し成熟したミツバチは、体が頑丈になり少し危険度の高い門番の仕事も開始します。巣門の検問や外敵と闘ったりします。

群合同: 普通
群分割: 普通
女王導入: 普通
外部の記憶: 普通
集蜜力: 普通
攻撃性: 警戒中は攻撃的になる

成熟したミツバチは、危険度が一番高い外部での仕事が主になります。体は更に頑丈になり性格は攻撃的・排他的になります。

群合同: 他の群を受け入れにくい
群分割: 元の位置に戻るので分割しにくい
女王導入: 他の女王蜂を受け入れにくい
外部の記憶: 強固に記憶している
集蜜力: 餌を集めに行く
攻撃性: 高い

成熟したミツバチは、排他的で群合同や女王蜂導入で少し問題になりますが・・・一番厄介なのが記憶です。現在の養蜂技術ではミツバチの記憶をリセットする事が出来ないので、群を移動させる時は面倒な作業が必要です。(分蜂時は、なぜかミツバチの記憶が一時的にリセットされています。)

ミツバチの記憶が引き起こす群を移動・分割・合同する際の問題
群(巣箱)を一度に数十メートル移動させてしまうと、多くの外勤蜂が巣箱に戻れなくなる。

巣箱の中で待機中の外勤蜂も、飛行した範囲の外部情報を記憶しているので、時間が経つと元の巣箱の位置に戻ってしまいます。
外勤蜂は巣箱の場所を記憶しているので、待機中の外勤蜂が分割群に居たとしても、元群(巣箱の移動無し)の方へ殆ど戻ってしまいます。

飛行した範囲外に巣箱を移動させれば、外勤蜂も分割群に残ります。
群同士が離れている時は、外勤蜂の合同が上手くいきません。

外勤蜂も合同したい時は、合同したい群同士が接近している必要があります。

群の移動・分割・合同時に発生する問題に対しては、各項目ごとに対策を掲載しています。ここではミツバチの記憶で上記の様な問題が起きるという事だけを覚えておけば大丈夫です。


群の臭い

群の合同や女王蜂の導入の際に重要となる群の臭いについて説明します。

ミツバチは群ごとに独自の臭いがあり、体臭で仲間を認識しています。体臭が違う生物は異物と認識され攻撃対象になってしまいます。

そのような理由で、単純に群同士を合同したら殺し合いになる事があります。 殺し合いにならないように群を合同するには、「体臭を馴染ませる」という作業が必要になります。

群の合同方法は何種類かありますが、共通しているのは臭いを発する物質を使って合同する事です。強い臭いを発する物質をミツバチに吹き掛けて、ミツバチの嗅覚が麻痺している間にお互いの体臭が馴染み仲間として認識されるようになります。 (例外:新聞紙合同や女王蜂の導入は、徐々に臭いを馴染ませる方法です。)

群の臭い

門番蜂は臭いで仲間を判断し、他群のミツバチが巣箱に入らないように監視しています。 しかし、監視体制は甘く、他群のミツバチが巣箱内部に入る事はよくあります。

通常、働き蜂は他群の働き蜂に出会うと喧嘩しますが、例外的に卵・幼虫・蛹・羽化して間もない成虫であれば、他群の者であっても働き蜂はほとんど攻撃をしません。

この習性を利用したのが、働き蜂を払い落した蜂児枠の他群への導入です。 蜂児枠は、臭い物質を使用しなくても、すぐに他群に入れる事ができます。

不都合な事に、巣箱内に長時間いた生物も攻撃対象外になってしまいます。 理由は、巣箱内に長く居る事で群の臭いに馴染んでしまうからです。

これは新聞紙合同・女王蜂の導入と同じ原理です。

ミツバチに砂糖水を大量に浴びせ、ミツバチが砂糖水を吸ってる間にお互いの臭いを馴染ませる砂糖水合同というのもあります。

ミツバチは、砂糖水を吸ってる間は互いに停戦状態になります。

一応、女王蜂も臭いを使って合同できます。 しかしリスクが高いので、女王蜂の直導入はしないでください。条件によっては女王蜂が直ぐに殺されてしまいます。女王蜂は特別という事を考慮して下さい。

条件:
①群に他に女王蜂が居た
②群が働き蜂産卵している
③排他的な群である

女王蜂は、働き蜂をコントロールする特殊なフェロモンを出しているのでじっくり群に馴染ませて下さい。

群の移動・分割・合同・女王蜂導入をする際は、ミツバチ(働き蜂)の記憶・成熟度・臭いを考慮して作業すれば失敗が少なくなります。

補足記事: 外勤蜂の訪花について

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