産地偽装ハチミツや糖類を加えた偽物ハチミツは、日本のみならず海外でも多いです。なぜこういう事が起きるかというと・・・ハチミツは売れるからです。ハチミツは保存が効き需要もあるので商品として大変優れています。
ハチミツは産地偽装が容易です。 容器に「○○産ハチミツ」と書かれていても証拠は無いのが現状です。養蜂家に「どこで採れたハチミツなのか証明しろ!」と質問しても、その事を科学的に証明するのは大変酷です。 一応、ハチミツの成分・花粉・不純物等で、どの花から採れたハチミツなのかはある程度把握できますが、「どの場所で採れたか?」という事まで正確に証明するのは大変難しいです。
海外産の安いハチミツを、日本で飼育しているミツバチに与え国産ハチミツに変換した場合は、真贋判定が難しいです。 日本に存在しない植物の花粉・不純物等が混じってれば、判定できそうですが・・・ハチミツを濾過されたら証拠が残りません。 訂正:蜂蜜中に含まれる炭素や酸素の安定同位体比で日本産or海外産の判別は可能なようです(同位体研究所より参考)。 |
ハチミツに限らず食品偽装に関しては、関係者がやろうと思えば出来てしまいます。偽装が発覚するケースは内部告発が殆どだと思います。
産地偽装ハチミツは見分けずらいですが、”液糖で水増し・砂糖水から作られたハチミツ” この二つの偽物ハチミツについては、検査で判定する事ができます。 これらの検査概要について説明しますが、解り易さ重視しているので細かいデータのツッコミは無しでお願いします。
ハチミツとは? 蜂蜜の主成分は、ブドウ糖と果糖です。それに各種のミツバチ由来の酵素・植物由来の花粉・ビタミン・ミネラル・その他不純物が混ざっています。 ミツバチが花から採ってきた花蜜(ショ糖が主成分)は、ミツバチの酵素によって蜂蜜(ブドウ糖・果糖)に変換されます。 |
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ショ糖をミツバチに与えた場合 ショ糖(一般的に砂糖と呼ばれる)をミツバチに与えると、花蜜と同じようにミツバチの酵素で分解されて、蜂蜜(ブドウ糖・果糖)として消費されたり貯蜜されます。 |
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異性化液糖とは? 異性化液糖とは、ブドウ糖・果糖混合溶液の事です。ブドウ糖と果糖の比率は変える事ができます。 異性化液糖と蜂蜜の主成分は同じです。それゆえ、異性化液糖は蜂蜜と似たような性質を持っています。(酵素・花粉・ビタミン・ミネラル類・その他の不純物が入っていないハチミツと考えると理解し易いです。) |
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異性化液糖をミツバチに与えた場合 異性化液糖をミツバチに与えると、蜂蜜と同じように消費されたり貯蜜されます。 |
次は、偽物ハチミツをどうやって作るか具体的に説明しますが・・・方法は単純です。ハチミツに異性化液糖を混ぜたり・ミツバチに砂糖水や異性化液糖を大量に与えるだけです。ミツバチを飼っている方は、自分で試してみましょう。
ハチミツを水増しする 本物の蜂蜜に異性化液糖を加えて量を増やします。 蜂蜜の主成分を原料に水増しする為、見た目は全く解りません。 異性化液糖で水増しし過ぎると、ミツバチや植物由来の酵素・花粉・不純物等の割合が減ります。 ハチミツと異性化液糖の混合物は、スーパーなどに加糖ハチミツの名前で売られています。これを純粋なハチミツとして販売すると偽装になります。 |
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砂糖水・異性化液糖をミツバチに与える 少し手の込んだ方法です。砂糖水や異性化液糖を大量にミツバチに与えてハチミツとして貯蜜させます。 一旦ミツバチの体を通すので、花蜜やミツバチ由来の酵素・花粉・香り・その他諸々がしっかり混ざります。 与える砂糖の量にもよりますが、かなり本物に近いハチミツが出来ます。 |
偽物ハチミツの作り方を理解したら、次は検査方法を知りましょう。
植物は、光合成の違いよりC3植物・C4植物・CAM植物の3つに分類できます。 C3植物とC4植物では、光合成によって合成される糖の炭素安定同位体比率に差がでます。その差を利用して由来する植物を見分ける事ができます。(ここではCAM植物は省きます。) 花を付ける植物はC3植物が大多数です。砂糖や異性化液糖の原料になるサトウキビやトウモロコシはC4植物です。 |
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C3植物とは? C3植物は、糖を合成する時に緑の炭素(炭素12)を優先して使います。 画像の作られた糖を見て下さい。C3植物では作られた糖に緑の炭素(炭素12)が多くなります。 |
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C4植物とは? C4植物は、糖を合成する時に緑の炭素(炭素12)をそれほど優先して使いません。 画像の作られた糖を見て下さい。C4植物では作られた糖に赤の炭素(炭素13)が多くなります。 |
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一般的に売られている砂糖(ショ糖)は、サトウキビ由来です。サトウキビはC4植物なので、この砂糖をミツバチに与え偽物ハチミツを量産した場合、炭素安定同位体比の検査に引っ掛かります。 異性化液糖は、主にトウモロコシのデンプンから作られています。トウモロコシもC4植物なので、異性化液糖をハチミツに混ぜると検査に引っ掛かります。 |
炭素安定同位体比検査では、ハチミツの炭素同位体を調べ、緑の炭素(炭素12)が多ければC3植物(花蜜)由来、赤の炭素(炭素13)が多ければC4植物(サトウキビ・トウモロコシ)由来の砂糖や異性化液糖が混じっていると判定します。
この検査の欠点は、C3植物由来のショ糖や異性化液糖(甜菜の砂糖とかジャガイモ由来の異性化液糖等)を使われると本物のハチミツとして判定される事です。 また、ハチミツに含まれるタンパク質中のC13比率が高い一部のハチミツ等も計算上、偽物と判定されてしまうことがあります(例:マヌカハニーなど)。
補足情報: 蜂蜜の炭素安定同位体比の検査方法はAOAC Official method 998.12になります。
糖鎖とは? 図のように糖鎖が短くなるにつれて蜂蜜(単糖)に近くなります。 本物の蜂蜜には、長い糖鎖が殆ど含まれていませんが、デンプンから作られた異性化液糖をハチミツに混ぜると長い糖鎖がハチミツに混入します。それを糖鎖検査で調べる事ができます。 |
糖鎖検査では、ハチミツ中のデンプンから作られた異性化液糖の有無を調べる事ができます。通常、糖鎖検査は炭素安定同位体比検査と同時に行なわれます。(炭素安定同位体比検査の欠点をカバーできる為)
HMFとは? HMF(ヒドロキシメチルフルフラール)とは、炭水化物を加熱した際に生成される物質です。 天然蜂蜜(ブドウ糖と果糖)には、HMFは殆ど含まれて居ませんが、蜂蜜を加熱すると蜂蜜中のHMF量が増加します。 その為、蜂蜜中のHMF量を調べる事で加熱された蜂蜜なのかを調べる事ができます。 |
一般的に蜂蜜1kg中のHMF量が40mg以上になると、加熱した蜂蜜の疑いがもたれます。
炭素安定同位体比・糖鎖の検査、この二つの検査を行えば、砂糖や異性化液糖を大量に使った偽物ハチミツが解ります。 しかし、上記の2検査も100%の精度ではなく、一部の蜜源植物由来のハチミツでは正確な結果が出ない場合があります(本当に一部の蜜源植物なので、大きな問題では無いと思います)。
これら検査の最大の欠点は、検査料金が2~4万円と高い事です。ハチミツを購入する度に検査していては、お金が掛かり過ぎ現実的ではありません。 個人的に8万払って4サンプルを検査しましたが・・・8万あったら他に色々な事が出来ると思いました。 実際に蜂蜜を検査した時の記事はコチラです。
ハチミツの真贋は科学的な検査しないと解りませんが、ハチミツの販売価格から真贋の推測ができます。 実際に養蜂している方なら解ると思いますが、ハチミツを採るまでの日々の作業はほんとうに面倒です。 開花期までに強群を育て、分蜂しないように内部検査を定期的にしっかり行い、蜂蜜を絞り、濾過し、ビンに詰めてラベルを貼り、やっと販売できます。
ミツバチを沢山飼えばハチミツも沢山採れると思っている方がいるかもしれませんが・・・それは間違いです。花蜜を出す植物は無限に花蜜を出し続ける事は無く、巣箱からミツバチの飛行範囲内(2~3km)で採れるハチミツの総量には限りがあります。 そういう訳で一ヶ所で大群を飼育しても花蜜の取り合いになるだけです。
ミツバチの花蜜の取り合いを避けるためには、周囲の養蜂家と折り合いをつけながら3~4km離れた場所に点々と適切な数の強群を置いていく事になります。 一ヶ所で集中して大群を飼育する事と違い、養蜂場が分散した場合は移動時間で作業効率が落ちます。
上記の事を考慮し100%純粋なハチミツを採ったとして・・・いくらで売れば利益がでるか察して下さい。 燃料費やビン・ラベル代・人件費を考慮すると、最低100gを300~500円前後で売らないとボランティア活動だと私は思います(日本製ハチミツの場合)。
ただ、「高いハチミツは全て本物か?」と言われると、色々な偽ハチミツのニュースを見ているとそうとも言いきれません。 最終的に科学的な検査無しで本物のハチミツを入手しようとした場合、自分で養蜂する若しくは信頼できる養蜂家からそれ相応の価格でハチミツを買う位しか選択肢がありません。
最後に、養蜂家としての個人的な意見ですが・・・全ての本物ハチミツが加糖・加工ハチミツより美味しいとは思いません。 ハチミツは蜜源植物により匂いや味が大きく異なるので、蜂蜜の真贋より自分の嗜好に合った製品を買うのが良いと思っています。